君のことは一ミリたりとも【完】
優麻は、私が不倫をしていたと知ったらどう思うんだろう。奥さんがいる相手と男女の仲になっていたと知って、私を軽蔑しないわけがない。
優麻だけじゃない。これは家族にも、同僚にも言えない。私はずっと"不倫をした過去"を背負って、ずっと誰に対しても罪悪感を抱いて生きていくんだろう。
あの恋愛は犠牲が多すぎた。
「……大丈夫、前よりは元気になった。ありがとね」
「うん、亜紀ちゃんが困ったらいつでも助けるから言ってね」
「……うん」
この時、私はあの恋愛を大事な人を騙してまでする恋ではなかったと後悔した。
目の前にいる大好きな優麻を、傷付けてしまうような恋をどうしてしてしまったんだろう。
どうして、あの時手を取ってしまったんだろう。
その時は幸せでも、いつか辛くなるとどうして分からなかったんだろう。
「(馬鹿だ、私……)」
一人の男性に依存して周りが見えなくなっていた。気が付いた時には一番大事なものを失っている。
これ以上大事なものを見失いたくない。優麻にはずっと笑っていてほしい。
「(あぁ、やっと……)」
やっと、生瀬さんを諦める決心が、ついた。
絶対に忘れられないと思っていた彼の体温が徐々に消えていくのを感じる。
その寂しさを埋めるために必死だった。彼からの贈り物で埋められていた部屋も、それを捨てただけで部屋が広く見えて怖かった。
一緒に捨ててはいけないものまで捨てたんじゃないかって怖かった。
でも大丈夫だ、今なら分かる。アレは全部捨てて良かった。
ただ、この手を離さなければ良かったんだ。