君のことは一ミリたりとも【完】
落ち着きなさいと私の肩を軽く何回か叩く。どうしてこの男はいつも自分の方が大人だと思っているんだろうか。
しかし優麻は「そうだよ!」と唐沢の意見に賛同した。
「夕方とは言えもう暗いし、駅まで送ってもらった方が安全だよ!」
「ね、優麻ちゃんもこう言ってるし?」
「……」
唐沢は私が優麻を引きに出されると抵抗出来ないことを知っている。知っているからこそこのような言い草をしてくるのだろうが、本当に性格の悪い人だと思う。
とにかく人の家の玄関でこのような言い争いをしていえも時間の無駄なので、結局私は唐沢と共に駅に向かうこととなった。
朝ここにきた時はまさか唐沢と帰るだなんて想像もしていなかったな。
「河田さーん、この後ご飯行かない?」
「明日仕事だしもう帰る」
「もう帰っちゃうの?」
確かに帰るにしては時間は早いが今日はもうこの男とは一緒に居たくない。
そう思っていたのに唐沢は私の腕を強引に取ると「ちょっと寄り道していこうよ」と強い力で引いていった。
たまに予想出来ない行動に出る。だからこの男が嫌いだ。
連れてこられたのは最上階に展望台がある複合ビルだった。暗い室内を真っ直ぐ突き進むと全面ガラス張りのフロアに出て、周りの夜景が堪能することが出来る。
普段こういうところに来ないからか、思わず「凄い」と感想を漏らしてしまう。
「どう? 生瀬にはこういうところ連れてこられた?」
「……」