君のことは一ミリたりとも【完】
確かに私がアイツと付き合い始めた時、私はまだ生瀬さんのことを忘れられずにいた。
生瀬さんのことを忘れたくて、前に一歩新しく踏み出したくて。「生瀬さんを好きなままでもいい」と言ってくれた唐沢は私のことを受け入れてくれた。
生瀬さんに別れを告げられた時、まるで世界が終わりを告げたように目の前が真っ暗になった。
これから私は何のために生きればいいのか、これまでどうやって呼吸をしていたのか分からなくなるぐらい自分を見失った。
もし唐沢と出会わなければ……私がここまで更生することはなかった。
唐沢の言葉がなかったら……
『河田さん、俺と付き合おう』
『俺以外の男に泣かされてる河田さんは見たくない』
『一回、心底人に嫌われてみたかったんだよね』
『……俺も、河田さんの力にはなるから』
『それでも行くよ』
あの男がいなかったら、そんなことを私はもう考えられなくなっていた。
いつの間にか、私の中で唐沢の存在は生瀬さんよりも何よりも大きくなっていた。
裏切りたくない。
「生瀬さん」
彼の名前を呼んだとき、もう心は決まっていた。
「貴方のこと、もう好きじゃないんです」
「あの男が好きなのか?」
「……それを貴方に言う義理もないです」