君のことは一ミリたりとも【完】
貴方が終わらせようとしてくれたこの関係を、今度は私が終わらせる。
貴方が果たしてくれようとしたその役目を、今度は私が果たす。
決定的に。
生瀬さん、
「さよなら……」
貴方を好きになって嬉しかった気持ちも、愛されて感じた幸せも、貴方との未来を夢見たことも。
全て、ここに捨てていく。二度とここには戻ってこない。
この人を想って流す涙もこれが最後だ。
彼に背中を向けて部屋の扉を開き、部屋を出て行こうとする。
亜紀、と名前を呼ばれたが振り返ることなく扉を閉めた。
ゆっくりと歩き出すとエレベーターホールへと向かう。
曲がり角でふと後ろを振り返ったが彼が追いかけてくる様子はなく、それを確認すると到着したエレベーターに飛込んで慌ててホテルを後にした。
ホテルを出ると鞄の中からスマホを取り出しながら駅へと早足で歩き出す。
とある男の電話番号をタップすると脚を止めずにスマホを耳に充てる。
数回のコール音が鳴り響いた後、その電話番号を彼へと通じた。
『もしもし? 亜紀さん?』
「っ……」
いつから私はその男の声を聞いて安心するようになったんだろう。
涙を引っ込めようと鼻を啜るとそれだけで通話の相手はどういう状況なのかを察したようだ。
『泣いてるの?』
気付いてくれて嬉しい、なんて。