君のことは一ミリたりとも【完】



何で唐沢はここにいるんだ。


「な、なん……何で……」

「ん? だって亜紀さん、俺に会いたかったんでしょ?」

「……」


今目の前に起きていることは現実なのか。私が思い描いた幻想なのか。
彼は私に近付くとスマホを持ったままの手で私の頰に触れる。


「あーあ、また生瀬に泣かされたの? 顔ぐっしゃぐしゃでぶっさいくー」

「っ……うるさ、い。そんなことよりなんでっ」

「約束したじゃん、駆け付けるって」


ね?、と目を細める唐沢に私も思わず頬を緩めてしまった。
本当、何もかもすることがめちゃくちゃすぎる。

でも、そのめちゃくちゃなところに助けられてる。


「本当、馬鹿」


本当に馬鹿だ、この男。

唐沢は私のことを抱き締めると「ねぇ」と耳元で囁く。


「まだ俺のこと一ミリも好きじゃない?」

「……」


その背中に腕を回すと彼の胸に額を当てる。


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