君のことは一ミリたりとも【完】
早く泣き止んでよ、じゃないと俺……
何するか分かんないから。
「本当、何でアンタここにいんのよ」
「……」
「私のこと嫌いなら、放っておけばいいでしょ」
必死に涙を止めようもする彼女が健気に見えて、今までにない興奮を覚えた。
高校時代から彼女に対して抱いていた感情がぐるりとひっくり返るみたいに、急激に彼女の泣き顔に惹かれ始める。
「嫌いだよ、アンタなんて。男のことで泣く女は一番嫌い」
「……」
「けど、アンタが俺以外の男に傷付けられてるのはもっと腹が立つ」
高校時代、俺に何言われても泣いたりしなかったじゃん。一回も傷付いた様子も見せなかった。
なのに何で男にフラれたことぐらいで馬鹿みたいに泣くの、意味が分からない。
「(意味が分からないのは俺だ……)」
やっと分かった。彼女に抱え続けていた感情の正体を。
嫉妬だ、俺は嫉妬していたんだ。自分以外のことで泣くほどに感情を揺すぶられた彼女に。
泣くなら、俺のことで泣いてよ。
「河田さん、俺と付き合おう」
彼女の涙で気が狂ってしまったのか、気が付けばそんなことを口にしていた。