君のことは一ミリたりとも【完】



「疲れたでしょ、先にシャワー浴びていいよ」

「っ……」


そっと柔らかい髪を撫でると頰あたりが少しだけ赤く染まった。
お、こういう反応は初めてだ。


「それにしても、亜紀さんいつのまに俺のこと好きになったの」

「煩い、シャワー浴びてくる」

「ごゆっくり」


上手いこと俺の質問を交わすと腰を上げてシャワールームへと向かう。ドアを閉める直前に「聞き耳立てないでよ」と睨まれたので「はいはい」と軽く返事をした。
それにしても俺のこと好きって言った時の亜紀さん、可愛かったなぁ。癖になりそうだ。


「(問題はまだ山積みだけど、取り敢えず生瀬は様子見だな)」


正直今回ばかりは亜紀さんと付き合えていて良かったと思った。まぁ俺がいなくても生瀬を振り切れる人だとは思っていたけれど。
そういう強いところに惹かれているんだと思う。俺がいなくても、時間さえあれば彼女は生瀬へと思いを断ち切れた。

だけど、だからこそ駄目にしたいと思う。俺は亜紀さんを。


「さて、仕事しますか」


少しでも煩悩が消え去るように。鞄からノートパソコンを取り出すと残っていた記事の作成を再開した。



< 195 / 295 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop