君のことは一ミリたりとも【完】
「疲れたでしょ、先にシャワー浴びていいよ」
「っ……」
そっと柔らかい髪を撫でると頰あたりが少しだけ赤く染まった。
お、こういう反応は初めてだ。
「それにしても、亜紀さんいつのまに俺のこと好きになったの」
「煩い、シャワー浴びてくる」
「ごゆっくり」
上手いこと俺の質問を交わすと腰を上げてシャワールームへと向かう。ドアを閉める直前に「聞き耳立てないでよ」と睨まれたので「はいはい」と軽く返事をした。
それにしても俺のこと好きって言った時の亜紀さん、可愛かったなぁ。癖になりそうだ。
「(問題はまだ山積みだけど、取り敢えず生瀬は様子見だな)」
正直今回ばかりは亜紀さんと付き合えていて良かったと思った。まぁ俺がいなくても生瀬を振り切れる人だとは思っていたけれど。
そういう強いところに惹かれているんだと思う。俺がいなくても、時間さえあれば彼女は生瀬へと思いを断ち切れた。
だけど、だからこそ駄目にしたいと思う。俺は亜紀さんを。
「さて、仕事しますか」
少しでも煩悩が消え去るように。鞄からノートパソコンを取り出すと残っていた記事の作成を再開した。