君のことは一ミリたりとも【完】
しばらくして、シャワーを終えた彼女に続いて俺も一日の疲れを流すとお互いバスローブ姿のままベッドの前で立ち尽くす。
「そのラインからこっち入ってきたら警察に通報するから」
「(亜紀さんマジ怖い)」
そう言って壁側のベッドに入った彼女に続いて隣のベッドに潜り込んだ。
こちらに向かって背を向けている亜紀さんは早く寝たいのか呼吸の音すら静かだ。
亜紀さんさ、と、
「本当に生瀬のこと尊敬してるんだね。俺が亜紀さんだったらネタを週刊誌にでも売ってるよ」
「……」
「……優麻ちゃんの次に裏切らないって感じがする」
もう寝たのかと思っていると暫くして彼女はポツリと一言発した。
「私、前の会社で虐められてたの」
「え?」
「新人の癖に愛想が無いとか、でも仕事が出来ると生意気だって。特に気にしてなかったけど」
確かに俺の知っている彼女の性格を考えると周りに敵を作ってしまってもおかしくはない。
しっかりしている分、周りの人から目を付けられやすい性格なのだろう。
自分の知らない彼女のことを彼女の口から聞くのは新鮮だった。
「仕事は好きだったけど環境が悪くて、でも転職も大変だしずっと悩んでた。そんな時にまだ今の会社を設立してない頃の生瀬さんと仕事をしたの」
「……」