君のことは一ミリたりとも【完】
こちらに背を向けている亜紀さんの顔を伺えば、完全に眠ってしまっているらしく、可愛らしい寝顔が見られた。
普段からこうやって大人しくしとけば可愛いんだけどなぁ。まぁ、普段から可愛いけどね。
「おやすみ、亜紀さん」
柔らかな髪の毛をそっと撫でるとベッドサイドのライトを消して俺も眠りについた。
翌朝、それぞれの準備を済ませると荷物を持ってホテルを出た。向かうのは駅の方面だ。
「アンタ仕事は?」
「午前休、だから午後から出勤」
「はぁ、本当に何しにきたの」
何しに来たって、そんなの亜紀さんがよく知っているくせに。
清々しい朝の中並んで歩いていると亜紀さんが突然脚を止めた。見ると駅の入り口に生瀬が立っているのが見えた。
彼は亜紀さんの隣にいる俺を見るなり驚いたように目を見開く。
「おはようございます、生瀬さん」
「……あぁ、おはよう」
何事も無かったように彼に声を掛けた亜紀さんに続いて俺も「おはようございます」と軽く挨拶した。
「彼女のことが心配で来ちゃいました。昨日は同じホテルに泊まったので安心してください」
「……そうか、すまなかった」
「それは、」