君のことは一ミリたりとも【完】
普段から読めない性格をしていると周りに言われる。自分自身ではよく分からない。だって自分のことはちゃんと自分で分かっているから。
確かに天邪鬼なところはあるなとは思う。だけど別にそれが素な訳じゃないよ。人当たりもいい方だと思うし。滅多に人に声を上げて怒ることもない。
つまり何が言いたいかと言うと、俺は結構自分のことを高く評価している。
「あれ、先輩スーツなんか着ちゃってどうしたんですか? 今から取材?」
「んーん、高校の同窓会なんだよねぇ」
後輩の加奈ちゃんはそう聞くと「高校……」と声を漏らした。
「先輩の高校生の姿なんてぶっちゃけ想像出来ないんですけど」
「ははっ、自分ではあんまり変わってないと思うけどね」
「先輩みたいに頭がキレる高校生が同じクラスにいたら吃驚します」
「そう?」
それはいい意味で受け取ってもいいのかな? 彼女の表情からは悪意は見えず、普段通りの大きな目に俺の顔が映った。入社2年目の加奈ちゃんは非常に懐いてくれていて、会社でもよく話す後輩だ。
そもそもこの部署には女子が他にいないから彼女は紅一点な訳だけど、それでも毎日元気に会社に通ってくれているのにはそれだけで男性陣にとって歓喜に値する。
「だから定時に上がっちゃうけどごめんね、あと任せていい?」
「大丈夫です、エム・シー通信からの連絡待ちですよね。そのあと取材の時間お伺います」
「ありがとう、頼りになる」
大量のプリント類や雑誌が積み上げられた机の上を適当に片付けるとノートパソコンを鞄の中に詰めた。すると人影が見えて真後ろに誰かが立っていることに気が付く。
振り返るとやはり同僚の竹村が「よっ」と片手を上げていた。