君のことは一ミリたりとも【完】
2 消えない貴方
《亜紀、今から会えるか?》
その連絡が来た時、まさかあんなことが待ってるだなんて馬鹿な私は何も気が付かなかった。
1ヶ月前から多忙な彼のスケジュールを確保して、その日の為に日々の仕事をこなしていた。だから用事が入ってその日が駄目になったと聞いた時は珍しく落ち込んだ。
しかし彼の仕事はいつ何処で仕事が入るか分からない職種だ。それを私は知っていたから「分かりました」と平気な顔を装って返事をした。その時彼は私の頭を撫でて「もっと我儘を言えばいいのに」と微笑んだ。
我儘を言って、貴方が困る姿を見たくなかったから。
だから私は、
『亜紀、ごめんな』
あの時も、最後まで我儘を言わない物分かりのいい女でいようと必死で……
『妻のお腹に子供がいる。亜紀、俺たちの関係を終わらせよう』
やっと落ち着いて二人でご飯を食べられると思っていたのに用事が入ったと断られ、自暴自棄になった私は行く気もなかった高校の同窓会に参加することになった。
高校時代の親友が妊娠で入院中である為、行っても何もいいことはないのは分かってはいたけれど一人でいることを少しでも紛らわしたかった。
そんな時、会えないとばかり思っていた彼から連絡がした。私はそのことが嬉しくていてもたってもいられなく、会場を抜け出して彼の元へと走った。
駅の前で彼の姿を見つけて笑顔で駆け寄るが、そんな私を待ち受けていたのは残酷な事実だった。
『生瀬さん……』
私よりも20は歳が上の彼が泣きそうな顔で謝ってくる。
いつからこんな日が来ると分かっていたはずなのに、何も受け入れられない私がいた。