君のことは一ミリたりとも【完】
自分の中に面白くない感情ばかりが渦巻いてくる。
「それは、彼女に言ってください」
「っ……」
隣にいた亜紀さんの背中を押すと生瀬と彼女が向き合う形になった。
改めて生瀬の前に立つと緊張しているのか、背中からそれが伝わったが、表情だけは厳しいままだった。
席を外す気がない俺を見て事情を全て知っているのだと悟った生瀬は、俺の前で亜紀さんに向かって深く頭を下げた。
「亜紀、本当に悪かった」
「生瀬さん……」
「亜紀に言われて気が付いた、俺は本当に身勝手なことをしていたんだと。それで、お前をずっと苦しめていたんだと」
生瀬の言葉を亜紀さんは目を逸らさずに受け入れていた。
「亜紀のことを幸せにしたいと思ったのは確かだ。でも俺にはその資格はなかった。それならこの気持ちを認めるべきじゃなかったんだ」
「……」
「今回のことでお前には心底幻滅されただろう。もう俺の元で働けなければ違う職場を紹介しよう。勿論お前の力が発揮できて、ここよりも良い環境の場を」
「あの、」
真剣に話を続ける生瀬の言葉を遮って、亜紀さんが黙っていた口を開く。
「……昔、生瀬さんに今の会社に誘っていただいた時、凄く嬉しかったです。初めて職場で必要とされたと思って、そこに恋愛感情はなくても凄く嬉しかった」