君のことは一ミリたりとも【完】
「今の仕事、凄く好きです。生瀬さんのお陰だと思います。本当にありがとうございます」
「……亜紀」
「なので、よければまた新しい関係として生瀬さんとやっていきたいと思っています」
昨日、生瀬からクビを切られなければ自分から辞めるかもしれないと口にしていた彼女。
しかし一晩経って自分が今大事にしているものが今の会社にあることに気が付いた。
亜紀さんはそういう人だと思うし、分かっていたから何とも思わなかった。
完全に生瀬のことを吹っ切れているからこそ、そのような判断が出来たんだろう。
生瀬は彼女の発言に驚きながらも、固かった表情を緩めた。
「あぁ、そうしてくれると俺としても有り難い。お前はウチの会社になくてはならない存在だ」
「……はい」
ああやって、亜紀さんが欲しがる言葉をポイポイあげていればそれは依存もするだろう。
だけどもう彼女はそれを間に受けることもないだろう。雇い主と社員として新しい関係を築く予定なのが彼女の表情から伝わった。
分かっているのに、やはり目の前で絆を見せつけられているようで面白くはなかった。
「君も、それでいいかな」
生瀬が亜紀さんから視線を俺に向けた。
ここで彼氏の俺に聞いてくるって、相当性格が悪く思える。
「まぁ正直なところ貴方のことは信じられないし、亜紀さんの側にいて欲しくはない人間ですけど。でも彼女の信念がそんな俺の感情だけで曲げられるとも思ってないんで別にいいです」
「……」
「けど、次手を出したら覚えておいてください」