君のことは一ミリたりとも【完】
やんわりと断りを入れてその場を去ろうとする。
「河田亜紀さんについて知ってることはありますか?」
その名前が出てくるまでは。
「はい?」
「この名前に見覚えはありませんか?」
「……」
どうしてゴシップ誌の記者の口から亜紀さんの名前が出てくるんだ。彼女は一般企業に勤めるいたってごく普通のOLだ。
どのみち関わらない方が良さそうだなと首を横に振ってしらを切る。
「すみません、聞いたことないです。じゃあこれで」
「そうですか、これを見てもですか?」
そう言ってその女が見せてきたスマホの画面には亜紀さんの家の玄関で話している俺と彼女の姿だった。
初めから分かっていながらも相手の口から言わそうとするなんて、週刊誌がやりそうなテクニックだな。
ならば物柔らかな対応をするのも無駄かと貼り付けていた笑顔をなくした。
「なんか用?」
「彼女について知っていることがあれば教えていただきたいのです」
「はぁ、と言われましても。普通に付き合っているだけですよ。週刊誌って一般人の恋愛にまで首を突っ込んでくるものなんです?」
一般人の恋愛、そう口にした瞬間に「しまった」と顔をしかめる。そういうことか。