君のことは一ミリたりとも【完】
10 強がりな彼女
生瀬さんとのことが解決してから、比較的平和な日々が続いた。
仕事で多忙すぎることもなく、人付き合いにも余裕が生まれたと思う。
私はいつも一人で空回りして周りが見えていなかった。一人で突っ走って結果だけを追い求めていた。
「亜紀、なんか最近いいことあった?」
「どうして? 何かあった?」
「なんか大阪出張から帰ってきてから吹っ切れた顔してるから」
菅沼にそう指摘されて思わず自分の顔に触れる。私ってそんなに分かりやすいんだろうか。
生瀬さんとも無事和解でき、この会社にいても罪悪感を抱くことがなくなった。向こうも私のことを意識せずに働いていることが伝わってくる。
それもこれも、全部唐沢のお陰なんだ。アイツがいなかったら未だに生瀬さんとは気まずい関係が続いたであろう。
唐沢の踏み込み方は失礼極まりないけれど、でもそのお陰で大切なことに気付かされる時もある。
「あ、もしかして彼氏といい感じ?」
「……そうかもね」
「そ、そっかー……」
自分から聞いてきたくせにあからさまにショックを受ける菅沼に同情する。
アイツにも、初めてちゃんと自分の気持ちを伝えることができた。ハッキリと、好きだって言えた。
『でも、きっとそうよ。アンタに対する気持ちは。きっと』
『きっと?』
『……きっと、恋愛感情だと思う』