君のことは一ミリたりとも【完】
生瀬さん、貴方は……
『やっぱり、そうですよね……』
初めから、好きになってはいけない人だった。
左の薬指に私じゃない誰かとの未来を誓った銀の指輪を付けている男性。それだけでも好きになってはいけないと分かっていたのに。
それでも彼の手を取ってしまったのは、愛してしまったのは私だった。
『嫌です、嫌です生瀬さん』
『亜紀……』
『好きなんですっ……』
我儘を言うのが遅すぎた? もっと甘えてくる女の子の方が可愛かった?
違う私なら、貴方は愛してくれた?
彼の前で初めて流した涙は私の頰を伝って地面へと落ち、少しずつそのシミを大きくしていく。
ごめん、と彼が申し訳なさそうに私の頭を撫でた。いつもと変わらないその優しい手つきにぐっと奥歯を噛み締める。
こんなに優しくされたって、私は彼の一番にはなれない。
もう遅い。
『行かないで、生瀬さん……!』
離れていくその背中に叫ぶ。だけど彼が私の方を振り返ってくれることはなかった。
あぁ、これは夢かもしれない。ううん、ずっと前から夢を見ていた。
初めて出会った日に優しく微笑まれたことも、彼が私に手を伸ばしたことも、ベッドの中で甘く囁き会ったことも、
「いつか結婚しよう」と言ってくれたことも。