君のことは一ミリたりとも【完】
『河田さん、俺と付き合おう』
全部、悪い夢だ。
ピピピ、ピピピ、ピピ……
「……」
私は布団の中から顔を上げると鳴っているスマホに手を伸ばしてアラームを切った。
どうして休みの日なのにアラームが設定されているんだろう。あぁ、そうか。昨日は帰ってこのままベッドで寝てしまったんだっけ。
怠くて重い体を起こしてみると私は昨日の同窓会の黒いドレスのままベッドに入っていた。
またメイクも落としていなく、アイラインは涙で剥がれ落ち、鼻の下は鼻水が乾いてカピカピになっていた。
「(ひっどい格好……)」
いい歳した26歳の女が一人の男に振られたぐらいで何やっているんだか。
はぁと溜息を付くとベッドから降りて背中のファスナーを降ろすとドレスを脱いで下着姿のままシャワー室へと向かった。
温かいシャワーに打たれながら昨日の酷い自分を洗い流す。このまま記憶まで洗い流せたらいいのに。
ていうか私あれからどうやって家まで帰って来たんだっけ。一人暮らしだから自分の脚で帰ってきたのは当たり前だけど、その経緯が全く思い出せない。
昨日は悲しみや怒りで頭が混乱して、記憶があやふやになっている。
「(だけど、生瀬さんのことは夢じゃない)」
夢だったらいいのに。