君のことは一ミリたりとも【完】
私が暮らしているところと違ってセキュリティーがとてもしっかりしているマンションだった。この男の性格を考えると分かりやすいが。
警備員が立っているエントランスを通り抜けエレベーターに乗るとからは迷わず8階のボタンを押した。
「あ、」
「どうしたの」
「いや、そういえばここ引っ越して来てから女の子部屋入れるの初めてだなーと」
「……」
突然そんなことを言われても。私の着替えが入った鞄を持ってエレベーターを降りた唐沢は軽やかなステップを踏みながら自分の部屋の前までやって来た。
二重のロックを外すと玄関扉を開き、「先にどうぞ」と私に促す。言葉に甘えて彼の部屋に入ると部屋の電気が付けっぱなしなことに気付く。
「あー、慌てて出て来たから消す忘れてた」
そう口にする唐沢に案内されながらリビングに通される。
私の住んでいる部屋よりも広々としたリビングを見渡す。
「(ふーん、結構いい部屋住んでるじゃん)」
奥に見える部屋は寝室だろうか。
「亜紀さんくるって聞いたら片付けたのに。どこにでも適当に座って」
「……私、」
「あぁ、それとももう寝る?」
寝室こっちね、と奥の部屋に足を進めた唐沢。その背中を目で追っているとテーブルの上に置いてあるノートパソコンが視界に入った。