君のことは一ミリたりとも【完】
今の私ならあの状況でも冷静に対処できたはず。唐沢に縋ったのは何かの間違い……
ずっとそう思っていたけれど、
「(本当は今日みたいに本能的にこいつのことを頼ってたのかな)」
自分が徐々にこの男に依存していっているのが嫌というほど分かる。この得体の知れない男にハマると後で後悔するって分かっているのに、何故か彼を求めてしまう自分がいる。
もう誰かに裏切られるのは嫌なのに。それでも、唐沢はそうじゃないって思い込みたい我儘な感情が垂れてくる。
都合の良いことばかり考えてしまうのは私の悪いくせだ。
「亜紀さん、仕事終わったけど」
リビングのソファーで彼の仕事が終わるのをどれくらい待っただろうか。
意識を半分飛ばしながら目を擦るとふわっと大きくる毛伸びをした。
「明日会社まで車で送ったげるから」
「いい、そんなに離れてるわけじゃないし」
「お互いの会社近いんだからいいじゃん。帰りも頑張って仕事終わらせるから一緒に帰ろ」
ていうかそろそろ寝たら?という彼の呆れたような声に頷くと腰を上げて寝室へと足を向けた。
って、
「そういえば同じベッドで寝るの?」
「あれ、嫌だった?」
「……私ソファーで」
「駄目だって。風邪引くし」