君のことは一ミリたりとも【完】
「あれ、爽太まだいたんだ」
「いたら悪いかよ」
「そんなこと言ってないけど」
いや、その発言は言ってるも同然だろ。聖は俺の隣にくると一緒になって姫乃ちゃんの顔を覗き込んだ。
俺も最初の頃は聖が一児の父親か、とあんまり実感が湧かなかったけど、こうして見るとちゃんと父親らしい表情も出来るもんだ。
ということは俺ももしかしたら……
「あ、亜紀ちゃんだ」
背後から聞こえてきた声に意識だけ向ける。どうやら彼女から連絡が来たようで、優麻ちゃんは手に付いた水滴をタオルで拭いてスマホを操作する。
そしてそれを耳に当てると連絡を掛けてきた主と電話をし始めた。
「亜紀ちゃんどうしたの? ん? 元気だよ?」
何を話しているのかは流石に聞き取れないがこのタイミングで電話をかけてくるところ、流石というかなんというか。
「(だから一緒にくればよかったのに)」
最初、次の休日に優麻ちゃんちに遊びに行かないかと持ち掛けたのは俺だった。
しかし即答で提案は拒否され、俺一人でここにくる結果となった。
心配症な彼女のことだから俺がここで何かやらかしていないか心配なんだろうなぁ。
「(本当、意地っ張りなんだから)」
「……爽太さ、この間話してたことだけど」