君のことは一ミリたりとも【完】
「その、アンタここ最近疲れてるみたいだから。何か元気になるような食事でも作ってあげようかと思って」
「……」
「ゆ、優麻の作ったご飯美味しいって言ってたし、教えてもらったんだけど……って、優麻のに比べたら全然だと思うけど」
期待しないで、と俺から視線を外し料理を続ける彼女。もしかして俺に連絡をしなかったのは俺に黙って夕食の準備をする為?
そのいじらしい姿に思わずと口元を手で押さえる。そうしないとニヤけているのが彼女にバレてしまうから。
台所に入り、黙って手を動かしている彼女に近付くと忙しそうにしている後ろ姿を抱き締めた。
すると慌てたように亜紀さんは「ちょっと!」とこちらを振り返る。
「な、なにいきなり! 離して!」
「ちょっと無理、亜紀さんが可愛すぎて」
「は!?」
「好きだよ」
昔の俺からは考えられないくらい「好き」という言葉が簡単に飛び出した。
動きを止めた彼女から離れると耳まで赤く染まった亜紀さんが「馬鹿じゃないの」と恥ずかしそうに呟いた。
あぁ、好きだなぁ。
「俺、思ってたよりも亜紀さんのこと好きっぽい」
「なにそれ、思ってたよりって」
「うん、だから大事にする」
凄く、大切にする。