君のことは一ミリたりとも【完】







午後9時半、人通りの少ないパーキングエリアで車を止めた俺はその助手席でノートパソコンを操作しながら電話対応に追われていた。


「そっか……分かった。ありがと」


通話相手にお礼を告げると途切れた通話に天井を見上げ、ふうと溜息を吐く。
電話で同じようなことを言われたのは今日で5件目だった。

どれもあの雑誌のことで、いくつか繋がりがある人物に片っ端から情報提供を促してみたが、やはり俺同様、法律ギリギリのところまで調べたとしても今以上のネタは掴めなかった。

これ以上は危ない橋を渡ることになる。人の人生に責任は負えないし、それ以上の無理を強いるのは俺の信条に反した。舘のように法律ギリギリさえ飛び越えていく人間は数少ない部類だ。
そんな舘が今回は使えない。そうなった時点でこういった結果になるのは目に見えていた。


「(ここまでか……)」


車で掛かっていたニュースを伝えるラジオ。パーソナリティーの男が淡々とニュースを読み上げる声に苛立ちを感じる。
意識を切り替え、小林から手渡されたホテルのカードキーに目を向ける。約束は10時、あと30分しかない。

本当、俺はもっと打算的な男だと思ってんだけど。
でも自分でも自分のことが分からないようじゃ、そう思い込んでいただけなんだろう。


「(ごめんね、亜紀さん)」


また君のことを傷付けるかもしれない。だけどそれは一瞬のことで、一生後悔を抱えて生きるよりかはマシだと思うから。
昔みたいに、俺のこと心底嫌ってくれていいから。二度と顔も見たくないって罵ってくれてもいい。その方が気が楽だ。

あぁ、でも勿体ないな。彼女の手放すのは。


「一ミリも好きじゃなかったのにな」


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