君のことは一ミリたりとも【完】
「お疲れ様、加奈ちゃん」
「おつかれー、折角だし今日どっか飲みに行っちゃう?」
「いいですね! 私気になるお店があるんです!」
竹村の言葉に目を輝かせた彼女は「コップ洗ってきますねー!」と自身のマグカップを手に取って編集部を出ていく。
健気なその姿に心が浄化されていると同じく仕事を終えた竹村が俺のデスクにまで来ていた。
「爽太も行くだろ? 仕事終わりそうか?」
「仕事はまあ、だけど今日は遠慮しとくよ」
「そうか?」
「うん、ちょっと野暮用。それに二人で行ってきなよ。俺邪魔でしょ?」
そう指摘すると竹村は一瞬驚いたように目を見開く。
「お前いつから」
「何となく、でも前からこうなるとは思ってた」
「そっか……何も伝えてなくてすまん」
「気にしなくていいよ」
竹村と加奈ちゃんが付き合い始めたのはここ最近の二人の様子を見ていたら何となく伝わってきた。
天真爛漫な加奈ちゃんに落ち着きがあって世話焼きでもある竹村の組み合わせは前から相性がいいんじゃないかと思っていたこともあって、気付いた時は嬉しかったがいつ祝言をあげようかとタイミングを見計らっていたのだ。
「まぁお前のこと相談されるうちにこうなって……その、ありがとな」
「いいえ、加奈ちゃんのこと大事にしてあげてね」
「それは当たり前」