君のことは一ミリたりとも【完】
生瀬が頼んだジントニックも届き、軽くグラスを重ねると最も気になってきたことを急かすように尋ねた。
「何をだ?」
「惚けないでください、あの週刊誌のことです。俺が絡んでいることも」
「前々からあそこは俺の周辺をしつこく漁っていた奴らでな、警戒もしていたし常に気には掛けていた。もし何かあれば会社ごと潰す手立ても考えてあった」
「……」
あの出版社には見えない大きな後ろ盾があった。それさえもこの男は壊せるほどの権力を持ってきたのか。
生瀬が以前の会社から独立した理由がよく分かった。彼には独立後成功する為の繋がりが多くあったのだ。
グラスをテーブルに置くとふと思案するような仕草を見せた。
「しかし対応が遅れたのは奴らが俺ではなく君に干渉していたからだ。そこまで気が回っていなかった」
「だけど貴方は気付いた。何故です?」
「……昨日、知らない番号から電話が掛かってきた」
いつしか俺も彼の話す内容に深く耳を傾けていた。
「相手の男は来週発売される週刊誌に俺の不倫のことがリークされることを知っていた。そしてそのことで君が奴らから脅しを受けていることも」
「その男は誰ですか?」
「名前は舘、と名乗っていた」
君の知り合いかな?と問われ、静かに首を縦に振った。あれから姿を現さないとは思っていたが、まさかそんなところで暗躍していたとは。