君のことは一ミリたりとも【完】
亜紀さんは俺の言葉にぎこちなく頷くと顔を上げ、強い意志が宿った目で俺を見た。
「もう二度と無茶しないで」
「ん、分かったよ」
普段はあんなにも強気な彼女が今は少し触っただけで壊れてしまうそうなくらい脆い。
どんな彼女にも自分が心底惚れ込んでしまっていることが身に染みて分かった。
ふと体を離すとお互いに顔を見合わせ、自然と唇を重ねていた。
久しぶりに触れた唇は柔らかく、そして少しだけ塩辛い味がした。
気恥ずかしそうに目を逸らす彼女にクスリと微笑むと立ち上がって座っていた亜紀さんの身体を抱き上げた。
「ちょっと! 何してんの!?」
「亜紀さん泣き止みそうにないから慰めてあげようと思って」
「なんで寝室向かってんのよ!」
「んー、なんでだろう」
中途半端に開いていた寝室の扉を脚で抉じ開けて中に入るとベッドに彼女の身体を下ろした。
ベッドの上で距離を縮め、迫る俺に戸惑いを隠せないようで依然としてこちらを見ようとしない亜紀さん。
「亜紀さん、好きだよ」
「……聞き飽きた」
「じゃあもっと伝えるから、聞いて?」
そして分かって? 俺がもう亜紀さんじゃないと駄目だってこと。
案外依存していたのは俺の方なのかもしれない。
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