君のことは一ミリたりとも【完】
12 君のことは一ミリたりとも
自分のことがずっと嫌いだった。
自分は自分、他人は他人。そう、普段から言い聞かせてきた癖に。
こういう時だけ、周りの人が羨ましくて仕方がない。
桜が舞う中、一人立ち尽くしていると更に自分が惨めに思えてきて……
意味もなく、泣けた。
「亜紀、今日は定時上がり?」
おつかれー、とデスクまで声を掛けに来てくれた菅沼に荷物を鞄に詰めながら頷く。
「そう、ちょっと用事」
「そっか、まあ金曜日だしな。俺も帰ろうかな」
「駅まで一緒に行く?」
そう誘えば彼は「ちょっと待ってて!」と身体を他の人のテーブルにぶつけながら自分の席へと慌てて戻っていった。
待ち合わせ場所は駅だし、まあ大丈夫だろう。
LINEで連絡が来ていないかを確認していると、こんな時間にオフィスの扉が開いた。
「みんなお疲れ。金曜なんだしいいところで切り上げていいからな」
メディア取材から帰ってきたスーツ姿の生瀬さんが社長室へ向かうためにこちらに歩いてくる。
途中、目が合ってしまい、私は軽く会釈をした。
「お疲れ、河田も帰るのか?」
「はい、お疲れ様です」
「そうか、土日ゆっくり休んでくれ」