君のことは一ミリたりとも【完】
そんな中身のない会話を交わすと彼はそそくさと社長室へと入っていった。
「(いつも通りだな……)」
生瀬さんからまだ一度も、あの週刊誌について聞いていない。
だけど私は唐沢からあのことについてちゃんと聞いていなく、生瀬さんのことも彼が「助けてもらった」と言っていたこと以外何も知らない。
敢えて何も話さないようにしているのだろうか。
ただ唐沢は「もう心配することはないから」と口にするばかりで。
「(生瀬さん……)」
生瀬さんが私のことを守ってくれたんだろうか。
「亜紀、お待たせ。どうした、ぼーっとして」
「ごめん、何でもない。行こっか」
通勤鞄を持って戻ってきた菅沼の声に我に返ると私たちは二人してオフィスを後にした。
「亜紀は土日何かする予定あんの?」
「んー、今週は特に……」
何もないかなと脚を進めていると、ビルを出たところで見覚えのある男が立っているのを見て思わず脚を止める。
彼は私に気が付くと手にしていたスマホを直し、こちらに向かって手を振った。
「あれって確か……」
「……」