君のことは一ミリたりとも【完】
約束は駅だって話してたのに、何勝手に私の会社まで着てるんだ。
手を振りながら私たちのところへ向かってくる唐沢に呆れて言葉を出てこない。
「亜紀さん、お疲れ。時間あったから迎えにきちゃった」
「きちゃった、じゃない。もし行き違いとかになったらどうするの」
そもそも先に連絡の一つくらい、と文句を言いたいところだが、唐沢の視線が隣にいた菅沼に向けられた。
この二人が並ぶと意外と菅沼の方が背が高いんだなということに気が付く。彼は分かりやすい作り笑いを顔に浮かべた。
「こんばんは、お世話になってます」
「あ、あぁ、亜紀の同僚の菅沼と言います」
「唐沢です」
簡単に挨拶を済ませると私たちの間に立ち、顔を交互に見やると菅沼は気まずさを感じながら「じゃあ」と軽く手を上げた。
「俺、帰るわ。亜紀お疲れ」
「え、ちょっと!」
「週末楽しんで!」
じゃなー、と逃げるやつにその場を去る彼を呼び止めようとした手が空を掴む。
すぐさま菅沼の背中は見えなくなり、唐沢と二人で取り残されてしまった。
「折角だから彼もご飯に誘えばよかったね」
「いや、アンタ何言うか分かんないし」
「信用がないなぁ。言うわけないじゃん、亜紀さんの大事な同僚くんに」