君のことは一ミリたりとも【完】
翌日の休み、一日中家から出ずに過ごした昨日とは違い、お昼ご飯を済ませると電車に乗って出掛けた。
目的地は病院で、目的の病室を見つけて中に入ると右奥のベッドに寝ていた彼女がこちらに向かって手を振った。
「亜紀ちゃーん! ありがとう!」
「ちょっと、そんなに乗り出したらベッドから落ちるよ」
長い茶髪であどけない笑顔を見せる彼女は私の高校時代からの親友の神崎優麻。一年前に結婚し、そして一週間後に一人目の子供の出産日を迎えようとしていた。
彼女の笑顔を見た瞬間に今まで背負いこんでいたものが一気に無くなって、気持ちが軽くなる思いだった。昨日一日誰とも会ってないからちょっと安心したのかもしれない。
「体調は?」
「平気〜、いつ産んでも大丈夫なくらい」
「元気なことはいいことだけどね」
出産前となると勝手に不安になったり自暴自棄になるんじゃないかと心配していたこともあり、優麻の元気そうな姿を見て、「まぁ良かったよ」とベッド近くのパイプ椅子に座る。
「神崎は?」
「聖くんはあと少ししたら来るって」
「お医者さんだもんねー。休日出勤って私じゃ考えられないや」
「……」
ベッドに座っている彼女が私の顔をジッと凝視してきたので「どうかした?」と首を傾げる。
「いや、亜紀ちゃん何か元気ない?」
「え、」