君のことは一ミリたりとも【完】
「ち、近いんだけど」
「なに意識しちゃってんの? はいこれ、亜紀さんの分」
「……ありがと」
というかこんなにのこのこついてきて、私本当に大丈夫?
前までは頑なに彼の前じゃ警戒心を解こうとはしなかったのに、どうしてだかこの顔を前にすると変に力が抜けてしまう。
こんなの、生瀬さんの時にだってなかったのに。
「今日テンション高いね」
「仕事終わりに彼女に会えたからじゃない?」
「……その、唐沢は変に思わないの?」
「なにが?」
私の質問にビール片手にキョトンと目を丸めた唐沢に「だから」と歯切れの悪い言い方で尋ねた。
「私たち、高校の時はあんなにお互いのこと嫌いだったのに、今こういう関係になってること」
「凄い今更なこと聞いてくるね」
「改めて考えるとおかしいのよ。なんで私ここにいるんだろう」
何でなんだろうと、と頭を悩ませている私に唐沢がふっと柔らかな笑みを浮かべた。
「そんな不思議に思うくらい、俺はもう亜紀さんの生活の中にいるんだね」
「え?」
「そういうことでしょ?」