君のことは一ミリたりとも【完】
唐沢の言葉に「そうなのか?」と自問自答を繰り返す。確かにこうして会うことは日常化してきているけれど、私の中で唐沢はそんな深い部分に根付いているんだろうか。
「確かに昔は亜紀さんのこと嫌いだったけど前に話した通り敢えて"嫌い"になってたわけで、そう自覚した途端俺の中では亜紀さんの存在が腑に落ちたんだよね」
「……私は、本当に好きじゃなかった」
「だろうね、だからこそこっちも本気で嫌いなフリができた」
私のことを傷付けない為か、それとも過去の自分を否定したいのか。
昔の敵対関係のことを肯定的に受け止める唐沢の姿は同じ歳のはずなのに私よりも大人に見えて、私はいつの時だってこの男の掌の上で踊らされていたんだと自覚する。
「俺は変に思わないよ。なるべくしてこうなった、とも思ってる」
「……本気?」
「うん」
「……」
純粋で真っ直ぐな目が私の胸を貫く。こういう時、どうしたらいいのか分からない。
人に依存することはあっても、誰かに依存されることなんて生まれてきて一度もなかったから。
なんて、唐沢の感情を私の依存感情と一緒にするのも失礼なのかもしれないが。
ただ一方的に寄せられる好意にどう対応すればいいのか。
「あ、そう」
「話振ってきたのそっちなのに逃げるんだ?」
「煩い」
ふいって反対を向いてビールを飲む私に唐沢のケラケラとした笑い声が部屋に響いた。
これを飲んだら家に帰ろう。この男といると調子が悪くなる。