君のことは一ミリたりとも【完】



私はまだ、心の中ではこの男に対してまだ苦手意識が残っている。


「拗ねないでよ」


唐沢はテーブルの上に缶を置くとより一層私と距離を近付けた。


「俺は亜紀さんに優しくしたいだけなんだから」

「……しなくていい」

「え、もしかしてそっち系?」

「違う、これ以上近付いたらはっ倒すから」

「一応、これでも彼氏なんだけど」


分かっている。分かっているのに脳でまだ上手く判断出来ない。
この距離をこの男に対して許していいのか、まだ正しい答えが出ていない。

確かにこの男のことは「好き」。それは確かなのに、私にはまだ……

まだ……


「っ……」


唐沢の骨張った手が身体に触れた瞬間、反射的にソファーを立ち上がった。


「か、帰る」

「え、帰んの? 明日休みだし泊まって行けば?」

「やだ、何されるか溜まったものじゃないし」

「これまで一回も手を出したことがないのに信用ないなぁ」


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