君のことは一ミリたりとも【完】
仕事の合間、生瀬さんに少しだけいいか?と会議室に呼び出された。こうして二人きりになるのは久しぶりのことだったので意味もなく緊張してしまう。
私が彼の向かいの席に腰を下ろしたのを見て彼が呼び出した理由を口にした。
「河田に任せたいプロジェクトがある。これはその資料」
「え、はい」
彼から渡された紙の資料に目を通す。内容からして今まで抱えた案件の中で最も大きな規模の仕事だ。
「今持っている案件もあることは知ってるんだが内容を見る限りだと河田に合っていると思った。いけそうだったら言ってくれ」
「……」
今までの実績を見て、生瀬さんが私に任せたいと思った仕事。尊敬する上司からの期待に応えたくないわけがなかった。
すぐさま「やらせてください」と返事をすると安堵したのか彼の表情が少しだけ柔らかくなった。
「ありがとう。今の案件との兼ね合いが難しそうであれば直ぐ声を掛けてくれ。サポートを用意する」
「お願いします……あの、」
「なんだ?」
資料から視線を上げて彼を見据える。真っ直ぐで鋭い視線は出会った頃から変わっていない。
見れば見るほど、唐沢とは正反対の人だなと感想が漏れる。
この人のことが、好きだった。
「ありがとうございます、生瀬さん」
「……」