君のことは一ミリたりとも【完】
30分後、残っていた食材で今出せる最上の夕食を作り終えたところで突然部屋の外側騒がしくなった。
「雨だ……」
それも大粒の。ベランダの窓から外を眺めながら激しく降り始めた雨に「唐沢は傘を持っているのだろうか」と心配になる。
まだ駅についていないのなら迎えに行ったほうがいいのではないか。
と、思っていたところで部屋のチャイムが鳴り、「まさか」と思って玄関へ駆けた。
慌てて玄関扉を開けると足元に水溜りを作るほどに濡れている唐沢の姿があった。
「あれ、ちゃんと確認した? 無用心だな」
「ちょっと、びしょ濡れじゃない!」
「あぁ、さっき降り始めてねー。通り雨かな」
濡れた前髪を触れる彼に「待ってて!」と告げると洗面所からバスタオルを持ってくる。
手にしたバスタオルを唐沢の顔面に目掛けて投げた。こんな姿で部屋に入れるわけにはいかない。
「先シャワー浴びて。リビング来ないで」
「酷い、これでも彼氏なのに」
「関係ない。脱いだ服乾燥機に突っ込んで。シャワー出る頃には乾いてると思うから」
彼の背中を押しやると唐沢は「お世話かけます」と言って脱衣所へと消えていった。
あれだけずぶ濡れになっているのに笑顔を絶やさないところときたら、彼らしいと言ったら彼らしい。
出たら直ぐにご飯食べれるようにしないと、そうエプロンを結び直した私はらしくなかったように思える。
浴室の方からシャワーの音が聞こえてくるのを確認すると私は台所へと戻ろうとした。