君のことは一ミリたりとも【完】
《そろそろ会わせてくれてもいいんじゃないかしら? ほら、優麻ちゃんも子供が生まれたんでしょう? お母さんも早く孫の姿みたいなぁ》
「いや、優麻は優麻だし私とは違うから! あと、その人とは……」
もう別れた、と説明しようとした時、後ろから「亜紀さん」と名前を呼ばれて振り返る。
と、
「なっ……」
「電話の途中ごめん、このタオルって使ってよかった?」
私の後ろに立っていた唐沢は上半身裸に腰にタオルを巻いたというほぼ裸同然の姿であった。
私は「ちょっと!」と耳元からスマホを離すと、
「なんで格好で突っ立ってるの!」
「だって服まだ乾いてないんだもん。一応下にパンツは引いてるよ?」
「当たり前でしょ!?」
この男、本当にどうしてくれよう。そんなことを考えている間にもスマホからは母の声が聞こえており、慌ててスマホを耳の位置に戻した。
《どうしたの? 誰かといるの?》
「お、お母さん。気にしないで。あと私ちょっと忙しいから後でまた掛け直す……」
よ、と母との電話を切ろうとすると手に持っていたはずのスマホがするりと手のひらを抜けて何処かにいった。
「え……」