君のことは一ミリたりとも【完】
思わず後ろを向くと上半身裸の唐沢が私のスマホを手にしていた。
何すんの、と取り返そうとすると彼は人差し指を口に当てて「しぃ」と悪戯そうに微笑んだ。
い、嫌な予感がする。
「お電話変わりました、僕亜紀さんとお付き合いさせていただいている唐沢と申します」
「っ!?」
「えぇ、僕は早くご両親にご挨拶がしたいと言っていたのですが彼女が恥ずかしがって、よろしければ僕の方でご挨拶の予定を立てても?」
通話先には見えないだろう胡散臭い笑顔で私の許可もなく母との会話を進める唐沢。
というか今、挨拶がなんだとか聞こえたような……
返して!とスマホに手を伸ばすが器用に私の身体を避け、奪わせようとはしない。
「今週の土曜日ですか……僕は大丈夫だと思うので彼女にも聞いてみますね。はい……ではよろしくお願いします」
軽く相槌を繰り返すとスマホを耳から離し、通話終了のボタンをタップする。
「なんで終わった!?」
「え、だって亜紀さんのお母さんが『それじゃあまたね』って言うから」
唐沢は呆然としている私の手の上に「ということで」とスマホを置く。
「亜紀さん、今週の土曜日暇? 亜紀さんのご実家に挨拶に向かいたいんだけど」
「無理だから」
「ごめん、もう約束しちゃった」
「しちゃったって、アンタ……」