君のことは一ミリたりとも【完】
その日は病院をあとにして買い物をした。しかしどんな服やアクセサリーを見ても購入欲が湧いてこず、結局何も買わないまま家に帰って来てしまった。
ご飯を作るのも面倒くさくなり、コンビニでお惣菜を買って帰ったのだが口に入れたもののなかなかうまく飲み込めない。最後にはティッシュに吐き出してしまった。
お昼は食べられたのに、いざ前を踏み出そうとしてみると上手くいかない。
「(何やってるんだろう、私……)」
何かをしようとして全部裏目に出ているみたいな。無理をしているわけじゃないのだけど。
いつになったらこの憂鬱さは無くなるんだろうか。自分一人しかいない部屋で落とされた溜息は更に私の気分を下げるだけだった。
そして月曜日、普段通り出社すると今だに晴れない気持ちが陰りが生まれ出す。
何とか今日までに気持ちを切り替えておきたかったけど、上手くいかなかったなぁ。
「亜紀、おはよう。顔真っ白だぞ」
「気にしないで」
おはようと隣のデスクの同僚である菅沼に返事をする。職場ではまず第一に仕事のことを考えなくてはいけない。いつまでも生瀬さんのことを引きずってミスを起こしてしまったら元も子もないのだから。
うちはイベント企画系の中小企業だ。企業や団体からイベントの運営や企画を受注し、主催者側と連携を取りながら制作を進める。まだ出来て5年ほどの会社だがこれまで様々な功績を挙げており、名前も広く知られるようになってきている。
何よりも代表がIT企業に勤めたのちに独立し、起業した会社であり一人でここまで大きな会社にしたことでかなりやり手だと有名なのだ。そのお陰で彼関係でのイベント依頼なども少なくはない。
しかし依頼を受ける側としてクライアントとの信頼関係が大事になってくる仕事であるため、少しのミスでも許されない。
「(仕事をすれば集中して彼のことを忘れられると思った……)」
だけど、ここには……
「おはよう」