君のことは一ミリたりとも【完】
窓の外を眺めている唐沢の横顔を盗み見る。夜の街並みの灯りに照らされた彼は同じ歳でも大人びているように思えた。
高校を卒業して8年、私もコイツとそれだけの時間を別々に生きてきた。もう二度と顔を合わせることはないだろうと思っていたのにこうして時間を共にしていることを不思議に思った。
学生の頃は私も生意気なところがあったし、それは社会人になって仕事をする上で改善されていったとばかり考えていた。
しかしコイツと再会した途端にその時のことが一気に思い返されて、高校の時と同じような対応を取ってしまう。
どうしてこの男に対しては大人になれないのか。
「それにしても意外だったな。河田さんって男性に興味持つことあるんだ」
淡々と話す彼の言葉に引っ掛かりを覚える。
「何か勘違いしてるみたいだから言うけど、私別にレズじゃないから」
「え、そうなんだ? てっきり優麻ちゃんのことが好きなのかと思ってたよ」
「……」
確かに優麻は私の中では特別だけれど、そんな目で見たことは一度もない。
ただ彼女が傷付くことがあれば必ず守りたいと思っているし、いつだって自分の中でも第一優先は彼女になる。
だけどそれは何も私だけの話じゃない。
「アンタだって優麻のこと好きだったくせに」
そう告げると唐沢は不意を突かれたように目を丸くした。
そして直ぐにいつもの余裕そうな表情に変わるとコーヒーを啜った。
「そんなこと今更言ったって意味ないじゃん。優麻ちゃんは大好きな聖と幸せな結婚をしてもう直ぐ一人目の子供の出産を迎える。そんな優麻ちゃんのことを恋愛の好きとは思えないし、この先もそれはないよ」