君のことは一ミリたりとも【完】
俺の中でも河田さんは男に泣かされるような人間だとは思っていなかったから。
そりゃどれだけ男を嫌っていても年齢を重ねると男性と恋愛することだってあると思う。しかし俺の想像上ではもし河田さんが男性から交際を断られた場合、「煩い!」とひと蹴りして何事もなかったように去っていくイメージがあった。
だから「別れたくない」と男にしがみついている河田さんを見てそのイメージが覆されたように「酷い」と思えてしまったのかもしれない。
このビルの窓からも昨日のカフェが見える。月曜日から仕事が詰まっていたので一旦休憩してから帰ろうと寄ったところ窓の外を眺めて座る河田さんを発見した。
俺はそのカフェのテラス部分を眺めながら「んー」と自分の顎を摩る。
「何で気になるんだろう、変だなぁ」
「高校の同級生だって言ったっけ? 昔好きだったとか?」
「いや、むしろ逆。昔は意見が対立することがほとんどだったから顔を合わせる度に喧嘩してた。向こうの親友と俺と親友がカップルだったんだけど、それ関係で顔を合わせることが多かったからね」
ただその親友同士で拗れた時が多々あって、俺は冗談で相手の優麻ちゃんのことを口説いたりしていたから彼女のことを一番に思う河田さんはいい思いをしなかったのだろう。
否、俺はその態度を優麻ちゃんのことが恋愛の意味で好きだからだと勘違いしていたわけだけど。
高校の三年間しか知らない俺が言うのも何だけど河田さんは依存体質だ。それも重度の。
大学時代は知らないが高校は優麻ちゃん、社会人になってからはあの別れた男に依存していたんだろう。そのことを指摘すると図星を突かれたように怒り狂うから間違い無いと思う。
その依存体質が俺はあんまり好かなかった。他人に依存して自分を狂わせるなんて阿呆臭い。
依存する方も依存される方にもメリットはないのだから。
だから俺は彼女が嫌いなのか。
「けど意外だわ、爽太が誰かに対して感情を露わにするのって。お前ってそういうのスルーしがちだろ」
竹村の言葉に俺は思わずフリーズする。