君のことは一ミリたりとも【完】
竹村が調べていたデータ内容に載っているその文章に俺は暫くの間考え込んだ。
生瀬が既婚者、だとしたら河田さんとの関係は一体……いやでも河田さんの反応から見て生瀬が彼女の恋人だったことは間違いないだろう。
つまり、
「(不倫関係……)」
彼女は自分が勤めている会社の社長と不倫をしていた。
その事実にたらりと冷や汗が垂れたように感じる。とてつもなく大きな後悔が自分を襲って押し潰されそうになった。
男に振られた河田さんを笑い者にするつもりだった。怒らせて遊ぶつもりだった。
しかし不倫となれば話は変わる。それがどちらからの提案で始まったのかは別にしても少なくとも全て彼女が悪い話じゃない。
不倫には大きなリスクを伴う。そんなことする時点で馬鹿なのは分かりきっているが、「好き」という気持ちを利用して気持ちだけを繋ぎとめようとする既婚者側に罪があると俺は考える。
そして利用するだけして、最後は自分の都合で突き放す。河田さんはあの男に捨てられたんだ。
なのに、
『この間の、あれ彼氏?』
『っ……』
『あ、"元"彼氏か。ごめんねー』
俺は何も知らないのに、今更罪悪感を感じても仕方がないのかもしれないけれど。
河田さんは全く俺の言葉に動じてなかったし、どれだけ軽い口を叩いたって声を荒げるだけだった。
絶対に泣いたりはしなかった。
あの男の前では泣く癖に。
「先輩? どうかしました?」
「……いや、何でもない」