君のことは一ミリたりとも【完】
だからと言ってこのままで終わるのは癪だ。
「珈琲お待たせしましたー」
「……」
カウンターの前で微動だにしない俺に店員が「お客様?」と不思議そうに顔を傾げる。
俺は珈琲を受け取ると何かがおかしいと考え込んだ。
駅へと向かって歩いていたはずだったのにいつのまにかまたあのカフェにいる。
ループか? いや、確実に俺がそう判断してやって来たのだけど。
「(ストーカーか?)」
今更会ったって何を話せばいいのか。
本当に今日で最後にしようと珈琲片手に窓側の席へと足を進める。
普段よりも遅い時間に来ているからか人は疎らで店内を見渡すことに困難は無かった。
と、
「……」
俺は窓側のカウンター席に座っているその後ろ姿を見て足を止めた。
いくら歳を取ったって、髪の毛を伸ばしたって、高校の時に見飽きるくらい見たその背中を間違えるはずがなかった。
今回は素通りすることなく空いているその隣に腰を下ろした。
河田さんはチラリとこちらを目で見た瞬間に顔色を変えて立ち上がろうとする。俺は素早くその左手首を掴んで逃がさない。
「な、ちょ! 離してよ!」
「えー、なんで逃げんの?」
「嫌いな奴が隣座ってきたら普通に退けるでしょ」