君のことは一ミリたりとも【完】
何それ、ちょっと失礼すぎじゃない?
慌てている河田さんの顔をジッと眺めると再びうーんと首をひねる。やはり好みの顔じゃない。なのに何でこんなに河田さんのことが頭から離れないのか。
「……本当に、何。怖いんだけど」
「……」
うんざりとしたその表情に「つまらない」と感じて、俺はその名前を口にする。
「生瀬俊彦」
「っ……」
「46歳。35歳の時に勤めていたIT会社を辞めて株式会社CUBEを設立、その後立て続けにプロデュースしたイベントを成功させて3年前に当時のイベントアワード賞を獲得した今話題のイベントプロデューサー兼代表取締役。ここ最近では今年の東京フラワーフェスを手掛けることでメディアにも引っ張りだこ」
そして、
「39歳の時に結婚してる」
俺の説明を聞いて力が抜けた彼女はへなへなと椅子に座り込んだ。
暫くしてこちらに顔を向けると口元を震えさせながら問い掛ける。
「アンタ、なんなの」
「実はこういうものでして」
ジャケットのポケットに入れてあった名刺入れから一枚取り出すとそれを彼女へと向ける。
受け取った河田さんはそこに書かれている俺の職種を見て脱力気味に口を開いた。
「噂好きのアンタにピッタリの仕事ね」
「わー、ありがとう」