君のことは一ミリたりとも【完】
褒めてないから!とキッと睨み付けると彼女はその名刺をテーブルの上に叩き付けた。
「アンタ、なに。もしかしてこんなこと言うためにここに来たわけ? 私と生瀬さんのことを書くんじゃないでしょうね」
「残念ながらうちはそういうことは書かない雑誌なんで。週刊誌と一緒にされちゃ困るよ」
「じゃあ何で……」
「……河田さん、やっぱり生瀬の会社で働いてるんだね」
まさか河田さんと生瀬が繋がっていたとは思わなかった。
ということはやはり河田さんは生瀬と不倫していたことは間違いない。
俺に弱みを握られたと思っているのか、彼女は先程から俺に対しての警戒を解こうとはしない。
「ちょっと待って、別に俺この情報どっかにリークするとかじゃないし」
「は? 説得力ないんだけど。どうせこれをネタに脅すつもりでしょ」
「河田さんの中で俺の評価低すぎない? そんなことするような人間に見える?」
「見えるわよ、アンタ自分が過去にやってきたこと覚えてないの」
えー、そんな酷い行いしてきたかなぁ。確かに好きじゃない人には悪態つきまくったけど。だけどアレは自分も若かったっていうか、今誰かを脅したりネタで揺すったりするのは好きくないというか。
しかし一向に俺のことを信じようとしない河田さんは更に俺を見る目つきを鋭くした。
「落ち着いてよ、たまたまうちの雑誌で生瀬の特集を組むことになってそれで調べただけ。まさか河田さんとそんな関係だったとは知らなかったけど」
「……」
彼女は「最悪」と一言漏らすと窓の外に視線を向けてコーヒーを口にする。
今この状態をどうやって打破するかを悩んでいる。その横顔を見ながら「冷静だな」と感想を心の中で漏らした。