君のことは一ミリたりとも【完】





多少荒ぶったとはいえ、普通に女なら不倫を知られたことでパニックに陥るはず。少なからずその可能性があると踏んでいた感じだ。
こういうところがいけ好かないんだよなぁと冷めつつあるコーヒーを口に運んだ。もっと可愛く泣いて「誰にも言わないで!」って縋りつけばいいのに。

そうなったらなったで俺は彼女を軽蔑する癖に。


「何で不倫なんかしたの」

「……アンタに関係ないでしょ。ていうかこんなところで大きな声で言わないでくれる?」

「ごめんごめん、だけど気になってさー」


河田さんは規律とかルールとか守る人間だとばかり思っていた。好きになった相手が自分じゃない誰かのものだったらそこで諦める人間だと。
不倫なんて以ての外。しかしそうさせる魅力が生瀬にはあったのだろうか。

生瀬が河田さんが二人でいるのを想像してはムシャクシャして前髪を握る。


「……あの人は悪くない。全部私のせい」


そうゆっくり呟いたのは俺たちの周りの人が少なくなってからだった。


「あの人は初めから私の気持ちに気が付いてたから、結婚してるから振ることもできたのに無視出来なかった。そういう人なの」

「……そんなの、美化し過ぎだよ。一般から見たら生瀬は結婚しているのに部下にも手を出した最低な人間だ」

「アンタには何も分かんないわよ。私と彼がどんな関係で何の話をしたのかも知らない癖に」

「……」


あぁ、その言い方。好きじゃない。まるで二人の世界に入りきっている。
自分たちの関係に口を出された瞬間に憤慨するところ、相手は悪くないと卑下することを許さないとするところ。全部河田さんの悪い依存症状だ。





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