君のことは一ミリたりとも【完】





河田さん、やっぱりアンタ全然変わってないな。
そして俺と一緒だよ。

嫌いな相手の前では一切の隙も見せずにバリアを張り続けるところが。


「ごめん……」

「……」

「……」

「……は?」


そう呟くと数秒した後に意味を理解した彼女が顔を上げて俺を見る。
鳩が豆鉄砲を食ったような顔して、失礼するよ。


「ごめんって、謝ってる。この間ちょっと言いすぎたし。事情も知らないのに好き放題言ってごめんね」

「……唐沢が謝るなんて明日雹でも降るんじゃない」

「河田さんってぇ〜、人のこと言えないくらい口悪いよぉ〜?」


それに謝るぐらいしますよ、僕も人間ですしね。
やれやれと肩を竦めると少しだけ彼女の警戒が解かれた気がした。

立場上、完全に悪いのは生瀬だ。河田さんは彼の罪に加担しただけにすぎない。
そう考えてしまうのはきっと俺個人の問題なのだろうけど。


「(河田さんは違う……)」


俺の"母親"とは違う。


「なんか河田さんを前にすると昔の悪い癖が出ちゃってね、無差別に攻撃しちゃうんだよね」

「もっと悪気を持って言いなさいよ」





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