君のことは一ミリたりとも【完】





「河田さんだってそうじゃん。どうせ生瀬に見せる顔と俺に見せる顔は違うでしょ。好きな男の前でだけ女の顔を見せる。弱々しい自分をね」


ぶっちゃけ弱々しくて女々しい河田さんなんて想像するだけでも気分が悪くなる。
すると河田さんは呆れたようにコーヒーのカップをテーブルに乗せると横目でこちらを見た。


「アンタ、女いないでしょ。性格悪いもんねー」

「俺も好きな女の子には特別優しくしますよ?」

「性格の悪さが顔に出てる」

「これでも女の子の後輩にはかなり懐かれてるんだけど」


しかも告白とかもされちゃったりして、とまでは河田さんには言いたくないけれど。


「本当ね、優麻は唐沢のこと優しいって言うし。全然変わってないよね」


口調が少し柔らかくなったなと視線を向けると彼女がほんのりと微笑んでいるのが見えた。
その横顔を暫しの間観察する。河田さんが俺の前で笑うとか珍しい。普段は睨み付けるか難しい顔しか見ていないから(自分のせい)。

笑った顔は、まだ悪くない。


「何?」

「っ……」


不意に目が合って何事もなかったように逸らす。見惚れていたなんて言ったらきっと反撃に遭うだろう。
河田さんはコーヒーを全部飲み干すと「じゃあ」と言って腰を上げた。突然すぎて「えっ」と声を漏らすと彼女が怪訝な様子でこちらを振り返る。








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