君のことは一ミリたりとも【完】
「っ……ん、ちょ、離して!」
「……、」
俺にキスをされていることに気が付いた彼女が慌てて俺と距離を取ろうと顔を離す。
しかし逃がさないと手を伸ばすと彼女の頰に両手を添え、自分の方へと引き寄せた。
至近距離で見つめ合うと彼女の涙が突然のキスで驚いたことによって止まっているのが分かった。
俺に怯えているのか、大きく見開いた目一杯に自分の姿が映った。
「河田さんの泣き顔、好きなのかも」
すると彼女の眉間がピクリと動いた。
「だけど、今の河田さんは嫌い」
「……は、」
「だから、」
俺のために泣いて?
俺のことを考えて、依存するなら俺にして。
「……アンタ、死にたいの?」
「……」
次の瞬間に飛んできた平手打ちに一瞬だけ意識が飛び掛けた。
月曜日、
「あれ、爽太先輩ちょっと左の頬赤くないですか?」
「……」
会社の前であった加奈ちゃんは俺の頰に赤い手形が出来ているのを見て心配そうな表情を浮かべる。
2日経っても痛み引かないとか、どんだけ強く叩いたわけ。
「やっぱあの女ぶっ殺す」
「!?」
俺ももう自分が何を考えているのか分からない。
自分を理解しているなんて、二度と言えないだろう。