君のことは一ミリたりとも【完】
「(とにかく、唐沢が優麻に告げ口しなきゃいいけど……)」
あの男のことだから何をしでかすか分からないけれど。
高校時代の彼の悪行を思い出し、私はベッドの上で肩を落とした。
思いの外ご飯も喉を通さず、水分だけ補給し出社した私に同期の菅沼が声を掛けた。
「おはよー、 って亜紀なんか顔色悪くね?」
「おはよう、気にしないで大丈夫」
そう、私は大丈夫だから。大丈夫なんだ。
こんなことで挫けてちゃいけない。もう26歳なのだから。
「今日朝一で会議だよね、よろしく」
「お、おぉ……」
菅沼の心配をよそ目に私は自分のデスクについた。すると少しだけ心が安らぐ気がした。
仕事場に来て休むっておかしな話だけど仕事に集中している間は全てを忘れていられそうになるから。
生瀬さんへの気持ちも、唐沢への苛立ちも。
お昼休憩を過ぎても仕事を続ける私の隣にドンッとコンビニのビニール袋が置かれた。
手元を止めて顔を上げると心配顔な菅沼が立ったまま私のことを見下ろしていた。
「お前、昼飯食ってないだろ。集中しすぎだ」
「あ、ごめん」
「それ、かなり詰まってんの?」