君のことは一ミリたりとも【完】
そういう訳じゃないけれど、今の私には仕事しかないから。
だからこの仕事を全うすることによって周りから認められるような気がしていた。
コンビニの袋の中にはアイスコーヒーとパンが2種類入っていた。コーヒーはちゃんと無糖で同期だからこそできる気遣いだと分かる。
菅沼に「ありがとうね」とお礼を告げて缶コーヒーを開ける。あと一踏ん張りして今日はささっと帰ろう。何だか休み明けなのに身体中が重いし。
そういえば、
「(私何日くらいご飯口にしてないっけ)」
最近は自炊するのも億劫になってしまって、個体のものを口に通す事も出来なくなったから暫く何もお腹に入れていないかもしれない。
体調だけは気を付けないとと社会人になってからは心掛けていたのに、それすら忘れてしまうなんて私はどうかしている。
男に振り回されている自分なんて、反吐が出そう。
コーヒーをぐいっと一口喉に流し込む。するとオフィスの玄関の方で何やら複数人の声が聞こえる。
「お客さんかな? でもまだ昼休みだぞ」
「……」
嫌な予感がする。私の足をこのまま椅子に絡み付けたまま動かせないようにするみたいに。
私の逃げ場なんて用意されてないみたいに、私を追い詰め続ける存在。
「っ……あ、」
コーヒーを飲んだばかりだというのに喉が急激に乾いた。
それもそのはず、オフィスに入ってきたのは華美な服装をした細身の女性だった。
彼女の姿を見た瞬間に私の平凡な日常が崩れていく音がする。