君のことは一ミリたりとも【完】
今、彼女はなんて私に告げたのだろうか。
『貴方の粘り勝ちかなって思ったんだけど、そうでもなかったようね』
ただの勝ち負けの話をしているようには聞こえなかった。
千里さんとは一度も長く話したことはない。つまり彼女は私の何かを知っていて、それを伝えるために近付いてきた。
ということは、
「っ……」
私と生瀬さんのことを、彼女は知ってるんだ。
サッと血の気が引くと、私は目の前が真っ暗になる。
どうしよう、生瀬さんが言ったんだろうか。ううん、あの人はそんなことをする人じゃない。
いつから知っていたんだろう。
「あ、俊彦さん!」
千里さんの華やかな声がオフィスに届く。外から戻ってきた生瀬さんは彼女を見ると「あれ?」と、
「来てたのか。そんな話してたか?」
「ふふ、思い立ってね。ハワイのお土産も渡したかったし、ケーキも焼いたのよ」
「なるべく俺がいるときにしてくれ。お前は問題発言が多いから」
「失礼ね」
幾度と二人の会話を見て来たけれど、今日のは何故か見せつけられているような気がしていい気分ではない。
だけどこういう感情も早く無くさないと、いつまでも生瀬さんに迷惑を掛け続けてしまう。